あらすじ

光州5・18
1980年5月に韓国で起こった「光州事件」。
全斗煥(チョン・ドゥファン)の軍事政権と民主化ムードが高鳴る光州の民衆の対立を描いた映画。
10日間に及ぶ衝突で民主化を要求する学生・市民に多数の死傷者を出した。
平凡なタクシー運転手ミヌは、高校生の弟ジヌと平和に暮らしていたが、ある日、全南大学のデモ隊と空挺部隊の衝突に巻き込まれる。

最初はお気楽ムード

人が良さそうな主人公、おしゃべりな同僚、美人で芯の強い女性、と韓国ドラマあるあるメンバーで、お寒いギャグを飛ばしながら始まり、だんだんと混乱に巻き込まれていく。

韓国映画あるあるなんだけど、高校生が老けすぎである。
イ・ジュンギ、顔は綺麗なのに学ランが合わない。
彼も残念ながら早々に退場してしまう。

おしゃべり同僚、映画「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」に出ていた、ユ・ヘジンさんかと思ったら、違った。
似てるようで似てなかったね。
一度見たら忘れられないフェイスとして有名なユ・ヘジンさんと間違うなんて!
また、ユ・ヘジンさんは、別の映画では、女優に「顔面が崩壊している」と言われていた。整形大国の韓国で彼みたいな俳優さんは希少。 

突然、軍が市民をボコる

暴徒でもない市民を棒で叩きまくる軍人。
逃げ惑う市民。
主人公ミヌと神父がこう話している。
「寝ている犬を蹴飛ばしたら、吠えるに決まっている。だから棒で叩いておとなしくさせる。そして騒ぎを沈めてやったから軍人に従え、ということだろう」
実際の真相はもっと複雑そうなので、詳しくはWikipedia等を読んでほしい。

軍人あがりのタクシー会社の社長

社長は社員思いで、男気があって、正義感が強くて、とても良い父親。
娘は本作のヒロイン、看護師のシネさん。
昭和の日本のドラマだと、混乱に巻き込まれたお姫様は怯えて何もできない。
男ばかりだと絵面がムサくるしいので、美人だしとこ的な役割も多かった。
ところが、ヒロインのシネさん、清楚な容姿でありながらメンタルつよつよ系。
銃弾がとびかう街に救急車で繰り出し、怪我人を回収しようとする。
運転していた医師が目の前で撃たれるが、間一髪逃げ延びる。

芸達者な子役にも注目

少年が親とはぐれて「アボジ〜!(お父さん)」と泣き叫ぶ中、父親が走ってきて子供を抱き上げる。
子供の目の前で、父が軍人に撃たれる。
「アボジ〜!」
しかセリフがないのに迫真の演技で胸が締め付けられる。
子供にも容赦ない悲劇。
いや、この父親、軍人に歯向かったわけでもないのに後ろから撃たれるとか気の毒すぎ。

社長が隊長となって市民を率いて軍に対抗

タクシー会社の社長、ただの社長じゃなかった。
社長は武器を揃え、建物に立てこもり、軍に対抗すべく作戦を立てる。
非常時なのに、怖いくらいに冷静だ。
正義感あふれる隊長は、素人集団を統率し、おしゃべりな部下も、うんこ踏んで女にフラれたチンピラおかっぱも、頼もしい兵隊に育成する。
集合写真を撮ったりして、このときはまだ和気あいあいとしたムード。
これが後に伏線となる。

隊長、娘への思いを語る

終盤で、タクシー運転手ミヌは、片思いの女性シネが隊長の娘と知る。
隊長は「あの子は大変な意地っぱりでね」と言いつつも、ミヌに娘を託す。
娘シネは父に死んでほしくない。
隊長は、ミヌに娘を守るように頼む。
ミヌは、今まで社長と呼んでいたのに、最後に「アボジ〜!」と叫ぶ。
未来の義父をそう呼べる日はこないことを予感しながら。
そして、シネを悲しませないため、彼女の父を守ると決めるミヌ。
皆が叶わない思いを抱きながら、破滅へと向かっていく。

想像どおりの悲劇を迎える

戦争は、敵を倒すために戦うのではなく、誰しも家族を守るため。
チンピラおかっぱも最初は強がっていたが、故郷の母親を思い出し静かに涙する。
最後は死んだ息子の名前を叫びながら、絶命した男性。
妻子がいる男は、一度は家に帰されるが、また市民軍に戻り、撃たれて死ぬ。
隊長はミヌに「最後は武器を捨てて逃げろ」と念を押した。
しかし、軍隊に「暴徒は武器を捨てよ」と言われ、
「暴徒じゃない!」と指示に従わず蜂の巣にされる。
「美しき野獣」のラストのクォン・サンウのよう。
いやいや、なんとしてもシネさんの元に生きて帰るという決意はどこいった?
主要メンバー誰も助からず全滅。
盲目のお母さん(いろんな映画でよく見る名物お母さんのナ・ムニさん)はどうなったんだろう?

悲しい集合写真

ラストは皆で集合写真を撮っている。
シネとミヌが婚礼衣装で、出演者全員勢ぞろい。
劇中では写真と遺体でしか登場しなかった、小柄なチャンスも笑っている。
生き残ったシネだけが無表情で、死んだ人達は満面の笑みを浮かべている。
チンピラおかっぱの彼女も、チャンスの母も笑顔を浮かべている。
彼女たちもどこかで亡くなっているのかな?
シネは一人きり、どう生きていくのか。
やはり韓国映画はバッドエンド。
軍隊と市民が戦うという、日本では考えられない衝撃的なシーンの連続だった。
正義感あふれる隊長がやったことは一見正しいようだけど、結果的に娘を一人にしてしまったわけだし、もっと他にやりようがあったのでは?とも思う。
光州5・18