あらすじ

ジョニー・デップが製作・主演を務め、水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いた伝記ドラマ。
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日本とは思えない風景に違和感

私は九州に居住し、水俣も知っているが、風景があまりにも違いすぎる。
新幹線が止まるほうの「新水俣駅」は近代的な建築物だが、肥薩おれんじ鉄道が通る「水俣駅」の近辺はいまでも静かな田舎町の佇まいだ。
ユージーンが水俣駅に降り立つシーンでは、駅のホームがなく、海沿いに小屋のような駅舎が建っている。
ホームがない駅は違和感がすごい。
昭和40年代から町が大きく変化しているため、セルビアのベオグラード港で撮影したという。
なんでセルビア。

水俣駅から1〜2kmあたりは商店街が並び、海沿いの町という雰囲気はない。
水俣病の被害が多く出たのは漁師町の月ノ浦あたり。
スーパーや鮮魚店に並ぶ、新鮮で綺麗な魚を食べた場合は、水俣病を発症した人は少なく、市場に出せなかった変形した魚を食べた漁師とその家族が、水俣病の被害にあっている。
こういった、細かい話にもできれば触れて欲しかった。

一般家庭での食事

日本人の家を訪問し、食事を振舞われ、刺身でもてなしを受ける。
よく見たら、湯のみの隣に置かれたのは「黒千代香(くろぢょか)」だった。
鹿児島生まれの酒器で、芋焼酎とお水を入れて前もって割っておき、直火で温めて使う。
お土産として喜ばれる伝統工芸品でもあるが、黒ぢょかにお茶は入れない。
水俣の漬物「寒漬け(かんつけ)」をすすめていたけど、また随分マニアックな品を。
漬物以外にもっと郷土料理あるでしょ...。

漁師町の風景

海岸で遊ぶ子供が、栗色の髪だった。
純日本人の両親に西洋風の子供。
養子というわけではなく、ただ日本人子役が呼べなかっただけのようだ。
海岸で魚を干している風景は異国情緒が漂い、どうみても日本っぽさはない。
建物の外観は石造り、内装は韓国風(?)時代も場所もチグハグな感じ。
ユージーンがカメラを持って町を歩くと、屋外で麻雀のようなテーブルゲームをしている男性に露骨に嫌がられたりしている。
実際どうだったかはわからないけど、挨拶もなしにいきなりカメラを向けられたら、そりゃ感じ悪いよな。

いきなりカメラを青年に譲る

ユージーンは、水俣病で足も手も不自由な青年シゲルに、ウイスキー片手に一方的に話しかける。
「通じてないけど話し続けちゃうぞー」
なんだこのおじさんは。
そして、いきなりカメラを渡す。
後でシゲルがカメラを返しに来ると、ユージーンは彼の手を取る。
シゲルはオドオドしながらきく。

「触るのおとろしゅなかと?」

ユージーンの妻が「怖くないのかと聞いている」と訳す。
水俣弁を正確に聞き取れている!
シゲル役(青木柚)、水俣弁も芝居もうまいなあと思った。
しかし、なぜ「出っ歯」をつけたのかな...。

病院での盗撮と窃盗

チッソ水俣工場附属病院へ赴き、カメラを隠して持ち込み、白衣を盗み、患者を撮影し、研究室へ忍び込み、証拠品を押さえる。
ストーリーに違和感があるので調べてみたら興味深いレビューを発見した。

映画『MINAMATA』に違法作品の疑い
“ユージンとアイリーン・スミスが水俣に来た1971年9月には、附属病院(木造平屋でコンクリートの階段などもない)は廃院となっていてすでに存在していませんでした。(引用)”

事実を捏造したストーリー展開は、被害者や実在の企業を冒涜していないか。
他にも、チッソ水俣工場の社長がユージーンを金で買収しようとするシーンも事実とは異なる。

水俣病の少女が入浴する写真

教科書か何かで「少女が入浴する写真」を見たことがある。
話すことも、自分の足で立つことも出来ない胎児性水俣病患者の少女だ。
作中では「アキコ」と呼ばれている。
ユージーンの妻が「アキコの母と買い物に行く」とユージーンに彼女を託す。
母親は困惑の表情を浮かべるが、ユージーンの妻が強引に押し切ってしまう。
ユージーンは、窓辺でアキコを抱き、歌を歌う。
彼女もまんざらでもなさそうで、笑顔を浮かべているように見える。
言葉も通じない外国人男性に、介護が必要な娘を預ける母親がいますかね?
無理やりすぎて、全然感動できないわ。
実際、ユージーン夫妻は3年以上にわたって水俣・東京・米国を言ったり来たりしながら撮影を続けていたので、それなりに信頼関係は築けていたのかもしれない。
しかし映画では「突然訪ねて来た無愛想な外国人」という態度で、あまり歓迎されていなかった。
地方の人は暖かいっていうけど、九州人、よそ者には厳しいよ。

なんちゃってでいいから九州弁らしくして

後半は、被害者が怒るシーンが多い。
方言、もうちょっとどうにかならんかったかな?
イントネーションが気になって頭に入ってこないんだけど、その中でも加瀬亮、真田広之はがんばってたなという気はする。
あまり有名ではない日本人俳優が多く出演する。
せめてもの救いは、中国人や韓国人が日本人を演じなかったこと。
これは監督がこだわったところらしい。
さすがに中国人に水俣弁は難解すぎるだろう。
「日本で撮影したかのような映画」とは微塵も思わないし、随所随所にフィクションが入れられたおかげで、ストーリー展開にも無理がある。
ただ、「ジョニー・デップが出てるから観ようかな」と思った人が公害について考えてくれたらいいな、とは思った。
エンドロールで、世界各国の水銀汚染やサリドマイド薬害被害などをテロップで紹介しているのが興味深い。
ほとんど知らない事件ばかりだった。
日本の学校で習った「水俣病」も、世界的にはさほど認知されていないのかもしれない。
平成の時代に水俣市を訪れ、ビジネスホテルやファミレスを利用したが、徒歩で行ける範囲内に店もあり、普通に生活しやすい街だ。
ちょっと足を伸ばせば温泉街もあるので、ぜひふらっと行ってみてほしい。

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